東京都精神作業所連絡会より
各共同作業所に向けてのアンケートへの疑問

週刊「街ニュース」第257号 (1998年1月27日発行)

12月に都精作連(東京都精神作業所連絡会)より各共同作業所に向けて、以下のようなアン ケートが送付されました(スタッフのモラル、接し方のいろいろ、自己チェック)。私たち「オープンスペース街」(以下、「街」)では、あまりに主観的なアンケートに疑問を感じ、メンバーとスタッフでミーティングを開き、各項目について話し合いました。その結果を、都精作連に抗議のファックスを送り、練馬区の精神保健福祉施設連絡会でも話し合っいく事を提案することにしました。

(*「街ニュース」編集者談/最初、このアンケートを見た時「何てひどい内容だ」と思った。
そして放ってしまおうかと思った。しかし、それでは「街」のスタイルに反すると、思い直した。「ひどい内容」と陰で個人的に確認しているだけでは何も変わらない。

「『街』では、どんなに小さな問題でも陰で話し合って個人的な問題として 終わらせるのではなく、常にメンバー、スタッフでのミーティングで話し合う
ことによって全体のものにしている」

とスタッフが後述しているが、この「街」の精神を発揮しようと、年明けで店もヒマなので、早速、店内で緊急ミーティングをした。そして、ミーティングを通して気付かされたことは、すべての設問に「街」としての答えを出すことが出来たということである。

これはどういう事なのか? 「街」の5年間を通して、こうした設問が現実の問題としてキチンと提起され、それを現実的に解決してきた、という事なのだろう。その意味では「街」の歴史を改めて確認させてくれた、このアンケートに感謝しなければならないでしょうね。

<アンケートの詳細>

(*各質問の答えは、4択に設定されていた。しかしイエス・ノー・その他では答えられな
   いことがほとんどなので短いコメントを書くことにした)*印は、編集者のコメントです。

1、メンバーが、あなた個人の車に乗せて欲しいといいました。あなたはこのことをどのように感じますか?

答、 状況の設定が特殊であり一般的な質問ではない。何を知ろうとしているのか分からない。

2、信頼のおけるメンバーがお金を貸して欲しいといいます。貸しますか?

答、「街」の場合は、個人的な金銭の賃借はしていない。メンバー同士の賃借が問題になって「街基金」をつくった。必要な人は、そこから借りることが出来る。

3、そのメンバーを信用しています。自宅の電話番号を教えますか?

答、メンバーを信用している・信用していないで分ける設問自体がおかしい。教える側が、引き受ける事ができるか判断する。「街」では自宅以外に、夜間・休日に相談できる場を作っている。「チャンプルー街」「関町ケアネットワーク」)(*当該作業所以外の人からの相談も受け付けている)

4、5、8、19 は、似ている質問。プログラムに参加しているあるメンバーがあなたとデートしたい・一緒に飲みに行きたいといってます。

答、 メンバーとスタッフとの間に線引きをして作られた設問自体がおかしい。人間対人間と考えれば、答は自明である。

6、メンバーがあなたの同僚の悪口を言っています。その意見に賛成ですが、それを感じたままいいますか?

答、設問自体が低次元すぎると思うが、「街」では、どんなに小さな問題でも陰で話し合って個人的な問題として終わらせるのではなく、常にメンバー、スタッフでのミーティングで話し合うことによって、全体のものにしている。

7、生きていることに悩んでいる当事者が、あなたの人生哲学を聞きたがっています。あなたは宗教をはじめとする自分の生きる価値観について話しますか?

答、 この質問が最も問題と思われる。なぜ宗教をはじめとする、なのか?自分の価値観を抜きに、人とどうやって話しをするのか?理解を越える質問だ!!

9、あるメンバーが、週末にビールくらい飲んでもいいと言っています。あなたも実は内心いいだろうと思います。そう言いますか?

答、「街」ではメンバーもスタッフも、それぞれ大人の判断ができると考えている。薬を飲んでいるからアルコールはここまでといった判断は、自分でしていかなければならない。他人からの指示によるものではない。
(*「チャンプルー街」のサンデー夕食会では酒を出している。アルコール依存症の人もキチンと節度を守って飲んでいる)

10、メンバーが下品なジョークで笑わせようとしています。おかしかったら笑ってもいいですか。

答、何が「下品」なのか基準の無いものに対しての設問は意味が無い。「街」は創設以来、セクハラ問題については、かなり厳しく追及している。
(*セクハラ発言・行動などがあった時はその場で緊急ミーティングを開きトコトン話し合っている。また差別発言についても同様。メンバー、スタッフ、ボランティア、お客さんであろうと話し合ってきた)

11、メンバーが教会を探していて、あなたの教会に行きたいと言います。

答 いいですか、質問7についてもそうだが、なぜ教会(宗教)なのか分からない。設問の問いかけが、一般から逸脱している。

12、13、毎日来ていたメンバー(スタッフ)が自殺してしまいました。それを正直に言いますか?

答、亡くなった事実は伝えるが、詳しい内容については、伝えられる時とそうでない時がある。
(*よく「メンバーが動揺するから事実を言わない」ということを聞く。しかし人の「死」に直面し動揺しない人がいるのだろうか?大切なことは、メンバーをそのように子供扱いしごまかすことではなく、メンバーには「死」をキチンと受け止める強さを発
揮できる可能性があることに確信を持つことではないだろうか?「関町ケアネットワーク」は一人の当事者の命を賭けた行動から生まれた)

14、あなたは、クシャクシャしているために落ち着きたくて、一人でお昼を食べようとしています。メンバーが来て一緒に食べたいと言います。一人にさせてくれと言ってもいいですか?

答、そういった感情がコントロールできない人は、スタッフとして不適格。また、そういった感情をコントロールしきれない時は休暇を取るべき。従って、この質問も不適格である。

16、メンバーがあなたとふざけたくてスキンシップを求めてきました。受け入れますか?

答、一体、何が知りたいのでしょうか?
(*作業所は、幼稚園や保育園ではない。大人の人間が集う場であることをハッキリさせる必要がある。しかし、スキンシップという低いレベル・安易な人間関係によってメンバー・スタッフの関係を作ろうという傾向は、常にはらまれている。安易な方法
だからね。それはスタッフの差別観から生まれるものだ)

17、メンバーがもっとお金を稼ぎたいと言っています。週に一度、車を洗ってくれたらお金を払ってあげようと申し出ますか?

答、設問が唐突である。個人のスタッフが個人のメンバーにという設問が目立つが、「街」では個人間の問題にすることを極力避けようと考えている。仕事についても、外仕事をもっと取ってくるといった解決の仕方をする。
(*本質的に言うと、お金を稼げないという現実に問題がある。共同作業所の給料があまりにも「人間離れ」している現実の中から、その解決の一助として「街」が作られた経緯がある。スタッフはもっと営業努力をすべきだと思う)

18、メンバーがパソコンを買いたがっている。

答、 「街」では個人的な金銭のやり取りはしないようにしている。リサイクルショップ「街」にパソコンの寄付があった時、メンバーが自分の給料で購入してもらう。

後日。ある日の会話から

「この設問すべてが、下品なジョークで作られている」(地域の人)

「アンケートで教会のことを言っていたし、お酒のことも出てくる。設問を考えた人は、キリスト教の人なのですか? プライベートな問題を宗教でくくるのはおかしい」(お客さん)

「こういう設問を考えるスタッフのいる作業所のメンバーは可哀想。これを読んで、おかしいと思わないスタッフは、まさかいませんよね」(病院・ディケアのメンバー)

「こんなしょうもないアンケートを採らなければならないほど、作業所には低レベルのスタッフしか集まってないとしたら、怖いね。まぁ、一般の会社では、ありえないほどの現実離れしたアンケートだった」(お客さん)

「この設問は、実際にあったことで、自分で判断できないから、アンケートをとったのかな?」(利用者)

「非常に矛盾した所から出ている問題ではあるが、この設問には重要な意味が含まれていると思う。自分達とは関係ないと切り捨てるのではなくて、このことを改めて掘り下げていく必要があるし、作業所にとっては今後の重要なテーマになるんだ
ろう」(地域の人)

「全体を通して感じるのは、メンバー(当事者)に対する偏見と差別と悪意に満ち満ちた設問だと言うことです。それ以上に恐ろしいと思ったのは、聞く所によると、このアンケートに対して、スタッフの側からあまり反対意見が出なかったらしい。そうした、ことなかれ主義に汚染されてる方が、もっと怖い気がするね」(商店街店主)


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